
遠い昔、マガダ国(まがだこく)に、賢明(けんめい)で敬愛(けいあい)される王様(おうさま)がいました。王様には、聡明(そうめい)で勇気(ゆうき)ある王子が一人おりました。その王子の名は、シヴァリンガ。しかし、人々は彼を「獅子王子(ししおうじ)」と呼んでいました。なぜなら、王子はまるで若き獅子のようであったからです。その毛髪(もうはつ)は夕日(ゆうひ)を浴(あ)びた金毛(きんもう)のように輝(かがや)き、その瞳(ひとみ)は鋭(するど)く、その声は大地(だいち)を震(ふる)わせるかのようでした。王子の心には、正義(せいぎ)と慈悲(じひ)が宿(やど)り、民(たみ)からの信頼(しんらい)は厚(あつ)いものでした。王は、いつかこの息子(むすこ)が立派(りっぱ)な王となると確信(かくしん)していました。
ある日、王は病に倒(たお)れ、その余命(よめい)は長くないと悟(さと)りました。臨終(りんじゅう)の間際(まぎわ)、王は王子を呼び寄せ、静かに語りかけました。「我が息子よ、まもなく私はこの世を去(さ)る。王位(おうい)は汝(なんじ)に譲(ゆず)るが、王として最も大切にすべきは、民の幸福(こうふく)である。そして、弱き者(よわきもの)を助(たす)け、強き者(つよきもの)を戒(いまし)めること。決して、己(おの)の欲望(よくぼう)に溺(おぼ)れてはならぬ。」王子の目には涙(なみだ)が溢(あふ)れましたが、彼は力強(ちからづよ)く頷(うなず)きました。「父上、お約束(やくそく)いたします。父上の教(おし)えを胸(むね)に、民のために尽(つ)くします。」
王が亡(な)くなり、獅子王子はマガダ国の新たな王となりました。彼の治世(ちせい)は、平和(へいわ)と繁栄(はんえい)に満(み)ち溢(あふ)れていました。飢饉(ききん)はなく、法(ほう)は公正(こうせい)に執行(しっこう)され、人々は王を心から慕(した)いました。しかし、平和が長(なが)く続(つづ)くと、人々の心に油断(ゆだん)が生(しょう)じます。王国の隣(となり)には、貪欲(どんよく)で野心的(やしんてき)な国がありました。その国の王、カリンガは、マガダ国の豊(ゆた)かさを妬(ねた)み、侵略(しんりゃく)の機会(きかい)を窺(うかが)っていました。
ある日、カリンガ王はついに兵(へい)を挙(あ)げ、マガダ国に攻(せ)め込(こ)んできました。カリンガ軍(ぐん)は数(かず)において勝(まさ)り、その勇猛(ゆうもう)さは凄(すさ)まじいものでした。マガダ国の兵(へい)は奮闘(ふんとう)しましたが、敵(てき)の勢(いきお)いに押(お)され、次第(しだい)に劣勢(れっせい)に立(た)たされました。王都(おうと)は危機(きき)に瀕(ひん)し、民(たみ)は恐怖(きょうふ)に震(ふる)え上がりました。
獅子王子は、王宮(おうきゅう)のバルコニーから、炎(ほのお)に包(つつ)まれる街(まち)と、逃(に)げ惑(まど)う人々を見下(みお)ろしていました。彼の心は怒(いか)りと悲(かな)しみで満(み)ちていました。彼は決意(けつい)しました。このままでは、愛(あい)する民が犠牲(ぎせい)になる。彼は、自(みずか)ら戦場(せんじょう)に赴(おもむ)くことを決(き)めました。
「皆(みな)の者(もの)、聞(き)け!」王子は力強(ちからづよ)い声(こえ)で叫(さけ)びました。「我(われ)は、このまま民が苦(くる)しむのを指(み)をくわえて見(み)ているわけにはいかぬ。我は、皆と共に戦う!」
王子は、王族(おうぞく)の甲冑(かっちゅう)を身(み)につけ、愛馬(あいば)に跨(またが)りました。その姿(すがた)は、まさに獅子そのものでした。彼は、残(のこ)された兵(へい)たちを鼓舞(こぶ)し、王都(おうと)の外(そと)の戦場(せんじょう)へと向(む)かいました。
戦場(せんじょう)は、血(ち)と泥(どろ)に塗(まみ)れていました。カリンガ軍(ぐん)は、獅子王子の登場(とうじょう)に一時(いちじ)騒然(そうぜん)となりましたが、すぐにその数(かず)の力(ちから)で圧倒(あっとう)しようとしました。しかし、獅子王子は恐(おそ)れることなく、敵陣(てきじん)へと突(つ)き進(すす)みました。彼の剣(けん)は稲妻(いなずま)のように閃(ひらめ)き、敵(てき)を次々(つぎつぎ)と薙(な)ぎ倒(たお)しました。
「退(ひ)け!カリンガの犬(いぬ)ども!」王子は咆哮(ほうこう)しました。「我が国土(こくりょ)を汚(けが)す者(もの)は、誰(だれ)たりとも許(ゆる)さぬ!」
王子の勇姿(ゆうし)は、マガダ国の兵士(へいし)たちに希望(きぼう)を与(あた)えました。彼らは再び(ふたたび)勇気(ゆうき)を奮(ふる)い起(お)こし、獅子王子と共に戦いました。王子は、敵(てき)の将軍(しょうぐん)たちを次々(つぎつぎ)と討(う)ち取(と)り、カリンガ軍(ぐん)を混乱(こんらん)に陥(おとしい)れました。
しかし、カリンガ王は屈(くっ)しませんでした。彼は、王子を捕(と)らえるために、自(みずか)ら兵(へい)を率(ひき)いて突(つ)きかかってきました。カリンガ王は、大柄(おおがら)で武勇(ぶゆう)に優(すぐ)れた男(おとこ)でした。二人の王は、戦場(せんじょう)の中央(ちゅうおう)で激(はげ)しく剣(つるぎ)を交(まじ)えました。火花(ひばな)が散(ち)り、大地(だいち)が揺(ゆ)れるかのようでした。
カリンガ王は、王子に力任(ちからまか)せに斬(ざん)りかかりました。王子は巧(たく)みにその攻撃(こうげき)をかわし、隙(すき)を見(み)つけては反撃(はんげき)しました。しかし、カリンガ王の力(ちから)は強大(きょうだい)で、王子の盾(たて)は次第(しだい)に傷(きず)つき、腕(うで)は疲(つか)れを増(ま)していました。
その時(とき)、カリンガ王が王子の盾(たて)を砕(くだ)き、致命的(ちめいてき)な一撃(いちげき)を放(はな)とうとしました。王子は、このままでは命(いのち)を落(お)とすと悟(さと)りました。しかし、彼は諦(あきら)めませんでした。父王(ちちおう)の言葉(ことば)が脳裏(のうり)に蘇(よみが)りました。「民の幸福(こうふく)のために。」
王子は、最後の力を込(こ)めて、カリンガ王の剣(けん)を捌(さば)き、その懐(ふところ)に飛び込みました。そして、カリンガ王の脇腹(わきばら)に、鋭(するど)い一撃(いちげき)を食(く)らわせました。カリンガ王は苦悶(くもん)の叫(さけ)びをあげ、その場(ば)に倒(たお)れました。
カリンガ王の敗北(はいぼく)を見て、カリンガ軍(ぐん)は総崩(そうくず)れとなり、敗走(はいそう)しました。マガダ国(まがだこく)は、獅子王子の活躍(かつやく)によって救(すく)われたのです。
戦(たたか)いが終(お)わり、王子は傷(きず)つきながらも、王都(おうと)へと帰還(きかん)しました。民(たみ)は、王子の勇気(ゆうき)と犠牲(ぎせい)に感謝(かんしゃ)し、歓喜(かんき)の声をあげました。しかし、王子は勝利(しょうり)の喜びよりも、戦(いくさ)で失(うしな)われた多くの命(いのち)を悼(いた)んでいました。
彼は、カリンガ王を捕虜(ほりょ)として連行(れんこう)しましたが、その命(いのち)を奪(うば)うことはしませんでした。代わりに、王子はカリンガ王に語(かた)りかけました。「汝(なんじ)は、多くの罪(つみ)を犯(おか)した。しかし、我(われ)は汝(なんじ)を許(ゆる)す。二度(にど)と我が民(たみ)を苦(くる)しめることのないよう、己(おの)の過(あやま)ちを悔(く)い改(あらた)め、良(よ)き王(おう)となることを誓(ちか)え。」
カリンガ王は、獅子王子の慈悲(じひ)深(ぶか)さに驚(おどろ)き、深く頭(こうべ)を垂(た)れました。彼は、王子の言葉(ことば)を真摯(しんし)に受け止(うけと)め、故国(こくりょ)へと帰(かえ)りました。その後(ご)、カリンガ国(こくりょ)は平和(へいわ)を愛(あい)する国(くに)へと変(か)わり、マガダ国(まがだこく)との間(あいだ)には永(なが)い平和(へいわ)が続(つづ)いたと言(い)われています。
獅子王子は、その後(ご)も民(たみ)を愛(あい)し、公正(こうせい)に国(くに)を治(おさ)め続(つづ)けました。彼は、戦(いくさ)の悲惨(ひさん)さを知(し)り、平和(へいわ)の大切(たいせつ)さを誰(だれ)よりも理解(りかい)していました。彼の治世(ちせい)は、マガダ国(まがだこく)の歴史(れきし)において、最も(もっとも)輝(かがや)かしい時代(じだい)として語(かた)り継(つ)がれることとなりました。
この物語(ものがたり)が教(おし)える教訓(きょうくん)は、真(しん)の強(つよ)さとは、力(ちから)や武勇(ぶゆう)だけではなく、慈悲(じひ)深(ぶか)さと正義感(せいぎかん)にあるということ。そして、たとえ敵(てき)であっても、相手(あいて)を許(ゆる)し、改(あらた)める機会(きかい)を与(あた)えることこそが、真(しん)の賢明(けんめい)さであることを示(しめ)しています。
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